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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)857号 判決

控訴人 打越照章

被控訴人 熊野千枝 外七名

主文

原判決を取消す。

被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴人代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人等代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用認否は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

原判決末尾第一ないし第八目録記載の不動産はもと亡柏木利之の所有であつたが、同人は昭和二四年三月二一日死亡し、同人の妻被控訴人柏木よね並びに嫡出子であるその他の被控訴人七名と訴外柏木栄重のため遺産相続が開始し被控訴人八名と柏木栄重が共同相続人となり、昭和三〇年八月二三日その相続登記がなされたこと、この結果柏木栄重が本件不動産の所有権につきそれぞれ一二分の一の持分権を有しておつたこと及び右栄重の持分権につき株式会社魚新のため神戸地方法務局明石支局昭和三一年一一月二日受付第一〇七〇六号原因同年一〇月五日売買予約とする所有権移転請求権保全仮登記、控訴人のため同支局同年一一月五日受付第一〇七二八号原因同日譲渡による右仮登記による被保全債権の移転の附記登記及び同支局同日受付第一〇七二九号、原田同日売買、取得者控訴人なる所有権移転の登記がなされておることはいずれも当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一、二号証第三号証の一ないし六、第四、五号証の各一ないし四、第六、八号証の各一、二、三、第七、九、一〇号証の各一、二及び第一一号証を総合考察すれば、被控訴人熊野千枝、柏木正子、柏木茂が柏木栄重を相手方として神戸家庭裁判所に遺産分割の申立をなし、その他の被控訴人五名を参加人として同裁判所で審理の末昭和三〇年一二月二四日に、

1  被控訴人熊野千枝に対し別紙第一目録記載の不動産その他を、

2  同 柏木正子に対し別紙第二目録記載の不動産その他を、

3  同 柏木茂に対し別紙第三目録記載の不動産その他を、

4  同 柏木よねに対し別紙第四目録記載の不動産その他を、

5  同 白井喬之に対し別紙第五目録記載の不動産その他を、

6  同 柏木和に対し別紙第六目録記載の不動産その他を、

7  同 柏木秀子に対し別紙第七目録記載の不動産その他を、

8  同 柏木徳子に対し別紙第八目録記載の不動産その他を、

それぞれ分割する審判がなされたが柏木栄重は右審判に対し、即時抗告をなし、それが却下されるや大阪高等裁判所に対し再抗告を申立てたが昭和三一年一〇月三〇日右再抗告も却下せられ、翌三一日その決定正本は栄重の代理人弁護士片山元蔵に送達せられ、かくて、亡柏木利之の遺産分割は同日確定した、ことを認めることができる。

而して、前記の通り柏木栄重が本件各不動産の所有権につき一二分の一の持分権を有しておつたこと及び右持分につき昭和三一年一一月五日受付第一〇、七二九号、原因同日売買、取得者控訴人なる所有権移転の登記の存在することに徴すれば、控訴人が栄重から右日時に右持分権の売渡を受けたことを推定することができる。

控訴人は抗弁として、被控訴人等が本件不動産につき遺産分割によりそれぞれ前記持分不動産の所有権を取得したとしても、その旨の登記をしていない。一方控訴人は右訴外人から株式会社魚新を経て柏木栄重の本件相続不動産に対する一二分の一の持分権を買受け、且つその旨の所有権移転登記手続を経由している。従つて控訴人は民法第九〇九条但書にいわゆる第三者に該当し、被控訴人等は前記権利を以て控訴人に対抗できない、と主張するに対し、被控訴人等は、仮りに控訴人において柏木栄重の本件不動産に対する前記持分権の譲渡を受けているとしても、その登記は、右審判が確定した昭和三一年一〇月三一日より後になされているから控訴人は右持分の取得をもつて被控訴人等に対抗できず民法第九〇九条にいう第三者に該らないと主張する。

よつて考えるに、民法第一七七条の規定は遺産分割による不動産の共有持分権の得喪変更にも適用すべきであると解するのが相当である。従つて、柏木栄重と被控訴人等間の遺産分割の審判は控訴人の前記持分取得登記の先に確定してはいるが、未だその登記をしていない以上、その分割をもつて控訴人に対抗できない。けだしこのように解しないと、分割によつて単独所有になつたことを知ることのできない第三者に不測の損害を与えるおそれがあるからである。右と反対の被控訴人等の見解は採用できない。

以上の理由により被控訴人等の本訴請求はその他の点につき判断するまでもなく失当であるからこれを棄却すべく、これと異なる原判決は不当であつて取消を免れない。

よつて民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)

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